◎今日のテキスト
梅田《うめだ》の停車場《ステーション》を下《お》りるや否《いな》や自分は母からいいつけられた通り、すぐ俥《くるま》を雇って岡田の家に馳《か》けさせた。岡田は母方の遠縁に当る男であった。自分は彼がはたして母の何に当るかを知らずにただ疎《うと》い親類とばかり覚えていた。
大阪へ下りるとすぐ彼を訪《と》うたのには理由があった。自分はここへ来る一週間前ある友達と約束をして、今から十日以内に阪地《はんち》で落ち合おう、そうしていっしょに高野《こうや》登りをやろう、もし時日《じじつ》が許すなら、伊勢から名古屋へ廻《まわ》ろう、と取りきめた時、どっちも指定すべき場所をもたないので、自分はつい岡田の氏名と住所を自分の友達に告げたのである。
――夏目漱石『行人』より
◎簡単だけど難しい呼吸法(一)
音読療法では古今東西さまざまに効用があると伝えられている呼吸法を、実際にその効果を確認しながら、子どもやお年寄りにでもできるようなシンプルな方法にまとめてある。
「だれにでもできますよ、毎日やってくださいね」
とお伝えしているのだが、実はこれがなかなか難しい。
難しさにはいくつかの理由があって、まず、その継続性を持つだけのモチベーションをどうやって保つか。それから、手抜きせずにきっちりすみずみまでおこなえるかどうか。そして最後に、これが一番重要なのだが、自分の呼吸や身体についての「気づき」を持てるかどうか、ということだ。
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