2012年10月5日金曜日

10月5日


◎今日のテキスト

 駈けて来る足駄《あしだ》の音が庭石に躓《つまず》いて一度よろけた。すると、柿の木の下へ顕れた義弟が真っ赤な顔で、「休戦休戦。」という。借り物らしい足駄でまたそこで躓いた。躓きながら、「ポツダム宣言全部承認。」という。
「ほんとかな。」
「ほんと。今ラヂオがそう云った。」
 私はどうと倒れたように片手を畳につき、庭の斜面を見ていた。なだれ下った夏菊の懸崖が焔《ほのお》の色で燃えている。その背後の山が無言のどよめきを上げ、今にも崩れかかって来そうな西日の底で、幾つもの火の丸が狂めき返っている。
 ——横光利一『夜の靴』より

◎ボイスセラピーは施術ではない

 いろいろな療法/セラピーでは、療法士/セラピストがクライアントにたいしておこなうことを「施術する」という。
 ボイスセラピーでは「施術」といういいかたは用いない。セラピストはクライアントに「施術」するのではなく、呼吸法や音読のエチュードをガイドして、共感的によりそう。あくまでもこちらからクライアントになにかを「与える」というのではなく、相手が本来持っている自己回復の力を取りもどすお手伝いをするだけである。

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