◎今日のテキスト
わたしの叔父は江戸の末期に生まれたので、その時代に最も多く行なわれた化け物屋敷の不入《いらず》の間や、嫉《ねた》み深い女の生霊《いきりょう》や、執念深い男の死霊や、そうしたたぐいの陰惨な幽怪な伝説をたくさんに知っていた。しかも叔父は「武士たるものが妖怪などを信ずべきものでない」という武士的教育の感化から、一切これを否認しようと努めていたらしい。その気風は明治以後になっても失《う》せなかった。わたし達が子供のときに何か取り留めのない化け物話などを始めると、叔父はいつでも苦《にが》い顔をして碌々《ろくろく》相手にもなってくれなかった。
その叔父がただ一度こんなことを云《い》った。
「しかし世の中には解《わか》らないことがある。あのおふみの一件なぞは……」
――岡本綺堂「半七捕物帳——お文の魂」より
◎子どもたちとの音読ワーク
昨日は墨田区の小学校までボイスセラピスト三人といっしょに音読ワークに行ってきた。
小学校を含む学校に音読ワークに行くことはかねてからおこなっていたが、行くたびに子どもたちの新鮮なこころと反応に触れてこちらも楽しくなると同時に、多くのことを学ばせてもらう。
残念なことに、現在の学校教育制度は子どもたちをのびのびと育てるというより、テストや競争による評価によってむしろ萎縮させ、型にはめるような方向性になってしまっているが、それでも良心的な教師は子どもたちを伸ばしてやりたいと懸命になっている。
音読療法協会はそのお手伝いをもっともっとしたいと思っている。
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