2012年9月4日火曜日

9月4日


◎今日のテキスト

 硝子戸《ガラスど》の中《うち》から外を見渡すと、霜除《しもよけ》をした芭蕉《ばしょう》だの、赤い実の結《な》った梅もどきの枝だの、無遠慮に直立した電信柱だのがすぐ眼に着くが、その他にこれと云って数え立てるほどのものはほとんど視線に入って来ない。書斎にいる私の眼界は極めて単調でそうしてまた極めて狭いのである。
 その上私は去年の暮から風邪を引いてほとんど表へ出ずに、毎日この硝子戸の中にばかり坐っているので、世間の様子はちっとも分らない。心持が悪いから読書もあまりしない。私はただ坐ったり寝たりしてその日その日を送っているだけである。
 しかし私の頭は時々動く。気分も多少は変る。いくら狭い世界の中でも狭いなりに事件が起って来る。それから小さい私と広い世の中とを隔離しているこの硝子戸の中へ、時々人が入って来る。それがまた私にとっては思いがけない人で、私の思いがけない事を云ったり為《し》たりする。私は興味に充《み》ちた眼をもってそれらの人を迎えたり送ったりした事さえある。
 私はそんなものを少し書きつづけて見ようかと思う。
 ——夏目漱石『硝子戸の中』より

◎音読療法・銀座シリーズ

 今日9月4日から、まさに「銀座シリーズ」とも呼ぶべき一連のイベントが始まる。というのはちょっとおおげさだけれど。
 銀座二丁目の西欧ギャラリーを利用しての「音読カフェ」や「2級ボイスセラピスト講座」が次々と開催されるので、興味のある方は気軽に参加またはお問い合わせいただきたい。とくに音読カフェは参加費1,000円と気軽に音読療法を体験できるので、おすすめだ。
 くわしくは音読療法協会の公式ホームページをご覧ください。

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