2012年9月16日日曜日

9月16日


◎今日のテキスト

 九月にはいつて急に末の妹の結婚がきまつた。妹と結婚をする相手は長い間上海の銀行に勤めてゐたひとで、妹とは十二三も年齡の違ふひとであつたが、何故だか末の妹の杉枝の方がひどくこのひとを好きになつてしまつて、急に自分がゆきたいと云ひ出した。
 始めは長女の登美子にどうだらうかと仲人の與田さんが話を持つて來たのであつたが、登美子は今度も氣がすすまないと云つて、與田さんの話をそのままにして過してゐた。與田さんの方では、登美子の寫眞も相手方へ見せての上のことなので、何とかして話をまとめたいと熱心であつたが、登美子はもう見合ひはこりごりだと思つてゐた。
 ——林芙美子「婚期」より

◎即興演奏と楽譜

 昨日聴きに行った知り合いのコンサートで、ミニマルな曲が演奏された。
 ミニマル曲というのは、ある音パターンを繰り返し演奏しながら、それが少しずつ変化していって風景を変化させるような音楽だ。
 おもしろい曲だったのだが、聴きながら、これと似たようなことを私は即興演奏でやっていることに気づいた。が、決定的な違いは、私の演奏は楽譜に残っていないけれど、この曲は最初から楽譜になっているということだ。
 それがいい、悪い、ではない。楽譜になっているというのは、別の演奏者が「聴く」ことではなく「弾く」ことの追体験ができることなのだ、ということに気づいた。

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