◎今日のテキスト
家を取り壊した庭の中に、白い花をつけた杏の樹がただ一本立っている。復活祭の近づいた春寒い風が河岸から吹く度びに枝枝が慄えつつ弁を落していく。パッシイからセーヌ河を登って来た蒸気船が、芽を吹き立てたプラターンの幹の間から物憂げな汽缶の音を響かせて来る。城砦のような厚い石の欄壁に肘をついて、さきから河の水面を見降ろしていた久慈は石の冷たさに手首に鳥肌が立って来た。
下の水際の敷石の間から草が萌え出し、流れに揺れている細い杭の周囲にはコルクの栓が密集して浮いている。
——横光利一『旅愁』より
◎音楽療法と音読療法
これは一見、似た部分があるし、実際におこなっている場面では重複することがある。そのために、一部の施設では「うちはすでに音楽療法をやってますから」と、音読療法の実施を断られることがある。
そういうとき、音読療法の特徴をうまく伝えられなかったことの残念さを感じる。
音読療法はなにも道具がいらず、いつでもどこでも、自分の呼吸と声、身体を使ってやれる方法だ。身につけてしまえば、療法士の手助けもいらない。
そしてさらなる大きな特徴は、療法のそれぞれの部分がユニット化していて、クライアントの状況に応じて即興的に進行プラグラムを変えていけることだ。
音読療法協会では、それぞれの療法士の個性や特徴を生かしたオリジナリティを尊重し、即興的にプログラムを進行していけるような指導を行なっている。
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