2012年3月7日水曜日

3月7日

◎今日のテキスト

 平出園子というのが老妓の本名だが、これは歌舞伎俳優の戸籍名のように当人の感じになずまないところがある。そうかといって職業上の名の小そのとだけでは、だんだん素人《しろうと》の素朴な気持ちに還ろうとしている今日の彼女の気品にそぐわない。
 ここではただ何となく老妓といって置く方がよかろうと思う。
 人々は真昼の百貨店でよく彼女を見かける。
 目立たない洋髪に結び、市楽《いちらく》の着物を堅気風につけ、小女一人連れて、憂鬱な顔をして店内を歩き廻る。恰幅《かっぷく》のよい長身に両手をだらりと垂らし、投出して行くような足取りで、一つところを何度も廻り返す。そうかと思うと、紙凧《かみだこ》の糸のようにすっとのして行って、思いがけないような遠い売場に佇《たたず》む。彼女は真昼の寂しさ以外、何も意識していない。
 ——岡本かの子「老妓抄」より

◎マインドフルを探す

 電車の中などの人が多い場所は、マインドフルの練習をするにはうってつけだ。
 まず自分の呼吸を整え、観察する。呼吸と自分の身体に意識が向けられたら、次にまわりを見回してみる。まわりに意識を向け、自分の存在がそのなかにあり、呼吸をして動いていることを感じる。
 それができたら、今度は、自分とおなじようにマインドフルの状態にある人がいるかどうかを探してみる。ほとんどの人がなにか思いにふけっていたり、ケータイをいじっていたり、眠っていたり、つまり「いまここ」に自分がいることの意識を持っていない人が多いだろう。友人との会話や電話に夢中になっている人も、自分の「いまここ」に気づいている人は少ない。
 マインドフルな状態にある人がいると、すぐにそれとわかるはずだ。なぜわかるのかはうまく説明できない。

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