2012年8月12日日曜日

8月12日


◎今日のテキスト

 浅草公園で二三の興行物を経営している株式会社『月世界』の事務所には、専務取締役の重役がいつもの通り午前十時十五分前に晴々しい顔をして出て来た。美しく霽《は》れ上った秋の朝で、窓から覗《のぞ》くと隣りのみかど座の前にはもう二十人近くの見物人が開館を待っている。重役はずっとそれらを見渡して、満足そうに空を仰いだ。すぐ前にキネマ館が白い壁を聳《そばだ》てているので、夜前の雨に拭《ぬぐ》われ切った空が、狭く細い一部分しか見えない。併《しか》し重役はそこから輝き落ちる青藍の光芒《こうぼう》をじっと見やって眼をしばたたいた。
 ——久米正雄「手品師」より

◎初対面の人と話をする

 初めて会う人と話をするときはなにかと緊張しがちなものだ。この人はどんな人なのだろう、優しい人だろうか、こわい人だろうか、自分に好意を持ってくれるだろうか、会話ははずむだろうか。さまざまな心配で、つい緊張してしまい、ぎこちなくなって、相手に不信を与えてしまったりする。
 私の場合、初対面の人と話をするときは、ただ一点のことだけをかんがえている。それは、「この人はどんなことを大切にしているのだろうか」ということだ。相手がなにを大切にしていて、どんなことに価値を置いているのか。どんなニーズを持って自分と会っているのか。ただその一点に興味を持ちつづけて相手に接する。それだけのことで、初対面の相手ともうまくコミュニケートできるだろう。

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