2012年5月23日水曜日

5月23日

◎今日のテキスト

 七百年以上も昔の事、下ノ関海峡の壇ノ浦で、平家すなわち平族と、源氏すなわち源族との間の、永い争いの最後の戦闘が戦われた。この壇ノ浦で平家は、その一族の婦人子供ならびにその幼帝――今日安徳天皇として記憶されている――と共に、まったく滅亡した。そうしてその海と浜辺とは七百年間その怨霊に祟られていた……他の個処で私はそこに居る平家蟹という不思議な蟹の事を読者諸君に語った事があるが、それはその背中が人間の顔になっており、平家の武者の魂であると云われているのである。しかしその海岸一帯には、たくさん不思議な事が見聞きされる。闇夜には幾千となき幽霊火が、水うち際にふわふわさすらうか、もしくは波の上にちらちら飛ぶ――すなわち漁夫の呼んで鬼火すなわち魔の火と称する青白い光りである。そして風の立つ時には大きな叫び声が、戦の叫喚のように、海から聞えて来る。
 ——小泉八雲「耳無芳一の話」(戸川明三・訳)より

◎音圧の話(二)

 非常に小さな音に耳をすませてみる。
 風の音、遠くから聞こえる踏切の音、犬の鳴き声、時計の音、鳥のさえずり、自分の呼吸。
 そのあとに声を出してなにか読んでみる。自分の耳に異変を感じるはずだ。あるいは音楽を聴いてみる。非常にクリアに音が聴こえないだろうか。
 小さな音に耳をすませていると、耳の解像度がだんだんあがってくる。逆に音圧の高い音ばかり聴いていると、耳の解像度はどんどんさがってしまう。
 たまにはヘッドホンをはずしたり、テレビを消して、できれば目を閉じて自分のまわりの小さな音に耳をすませてみよう。

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