2012年5月18日金曜日

5月18日

◎今日のテキスト

 摂津《せっつ》半国の主であった松山新介の侍大将中村新兵衛は、五畿内中国に聞こえた大豪の士であった。
 そのころ、畿内を分領していた筒井《つつい》、松永、荒木、和田、別所など大名小名の手の者で、『鎗《やり》中村』を知らぬ者は、おそらく一人もなかっただろう。それほど、新兵衛はその扱《しご》き出す三間柄《え》の大身の鎗の鋒先《ほこさき》で、さきがけ殿《しんがり》の功名を重ねていた。そのうえ、彼の武者姿は戦場において、水ぎわ立ったはなやかさを示していた。火のような猩々緋《しょうじょうひ》の服折を着て、唐冠纓金《えいきん》の兜《かぶと》をかぶった彼の姿は、敵味方の間に、輝くばかりのあざやかさをもっていた。
 「ああ猩々緋よ唐冠よ」と敵の雑兵は、新兵衛の鎗先を避けた。味方がくずれ立ったとき、激浪の中に立つ巌のように敵勢をささえている猩々緋の姿は、どれほど味方にとってたのもしいものであったかわからなかった。また嵐のように敵陣に殺到するとき、その先頭に輝いている唐冠の兜は、敵にとってどれほどの脅威であるかわからなかった。
 ——菊池寛「形」より

◎「嫌だ」という感情をきちんと扱う(一)

 だれかになにか嫌なことをいわれたり、嫌なことをするように押しつけられたりしたとき、その感情を押し殺そうとしてしまうことがある。というのも、嫌なことを「嫌だ」と自覚してしまったら、本当にそのことができなくなってしまうかもしれない、と思うからだ。
 しかし、感情を押し殺すことはよい結果をもたらさない。
 自分が嫌だと感じているそのことをきちんと認識し、その感情がどこから来ているのか丁寧に扱うことで、相手にも対処できる。

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