2012年5月22日火曜日

5月22日

◎今日のテキスト

 明治倶楽部《クラブ》とて芝区桜田本郷町のお堀辺《ほりばた》に西洋作《づくり》の余り立派ではないが、それでも可なりの建物があった、建物は今でもある、しかし持主が代って、今では明治倶楽部その者はなくなって了《しま》った。
 この倶楽部が未《ま》だ繁盛していた頃のことである、或《ある》年の冬の夜、珍らしくも二階の食堂に燈火《あかり》が点《つ》いていて、時々《おりおり》高く笑う声が外面《そと》に漏れていた。元来《いったい》この倶楽部は夜分人の集っていることは少ないので、ストーブの煙は平常《いつ》も昼間ばかり立ちのぼっているのである。
 然《しか》るに八時は先刻《さっき》打っても人々は未だなかなか散じそうな様子も見えない。人力車《くるま》が六台玄関の横に並んでいたが、車夫どもは皆な勝手の方で例の一六勝負最中らしい。
 ——国木田独歩「牛肉と馬鈴薯」より

◎音圧の話(一)

 「音圧」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
 音楽業界用語で、音の圧力の変動のことをいうのだが、まあボリュームのことだと理解しておいても大きく間違いではない。
 商業音楽や放送では、とにかく多くの人に迫力のある音を届けるために、「音圧を稼ぐ」ということをする。具体的にはコンプレッサーというイフェクターを通して、音の圧力を均一にする。大きな音と小さな音の差を圧縮し、全体にボリュームをあげるのだ。
 こういう音を聴きつづけていると、私たちの耳は一様に鈍感になっていく。

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