2012年5月2日水曜日

5月2日

◎今日のテキスト

 実際は自分が何歳《いくつ》の時の事であったか、自分でそれを覚えて居たのではなかった。自分が四つの年の暮であったということは、後に母や姉から聞いての記憶であるらしい。
 煤掃《すすは》きも済み餅搗《もちつ》きも終えて、家の中も庭のまわりも広々と綺麗《きれい》になったのが、気も浮立つ程嬉しかった。
「もう三つ寝ると正月だよ、正月が来ると坊やは五つになるのよ、えいこったろう……木っぱのような餅たべて……油のような酒飲んで……」
 姉は自分を喜ばせようとするような調子にそれを唄って、少しかがみ腰に笑顔で自分の顔を見るのであった。
 ——伊藤左千夫「守の家」より

◎呼吸を写すミラーニューロン

 深くてゆったりと落ち着いた呼吸をしている人のそばに行くと落ち着く。逆に、浅くて不安げだったり、緊張している呼吸をしている人のそばに行くと、こちらまで不安になったり緊張したりする。
 これは他人の身体の状態を写し取ろうとするミラーニューロンの働きによるものだが、朗読や音読をするときにはそれが顕著だ。朗読・音読では言葉と声を使うが、それらは呼吸によって生まれている。声には呼吸の状態がそのまま乗る。
 落ち着いて人になにかを伝えたいときには、自分の呼吸が落ち着いている必要がある。逆に、あわただしく伝えたいときには、せわしない呼吸をすればいい、ともいえる。これらは日常のなかで簡単に実験ができるので、やってみるといい。

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