2012年6月8日金曜日

6月8日

◎今日のテキスト

 客はもうとうに散ってしまった。時計が零時半《れいじはん》を打った。部屋の中に残ったのは、主人と、セルゲイ・ニコラーエヴィチと、ヴラジーミル・ペトローヴィチだけである。
 主人は呼鈴《よびりん》を鳴らして、夜食の残りを下げるように命じた。
 「じゃ、そう決りましたね」と主人は、一層ふかぶかと肘掛椅子《ひじかけいす》に身を沈めて、葉巻《はまき》に火をつけながら言った。
 「めいめい、自分の初恋《はつこい》の話をするのですよ。では、まずあなたから、セルゲイ・ニコラーエヴィチ」
 セルゲイ・ニコラーエヴィチというのは、まるまると肥《ふと》った男で、ぽってりした金髪《きんぱつ》・色白の顔をしていたが、まず主人の顔をちらと眺《なが》めると、眼《め》を天井《てんじょう》の方へ上げた。
 ——ツルゲーネフ『はつ恋』(神西清・訳)より

◎自分の場所

 人はだれかとつながりたい、自分を理解してもらえる人といたい、安心できるコミュニティに属していたい、というニーズがある一方で、ひとりでいたい、だれにも気を使わずに自由にすごしたい、ひとりになれる場所がほしい、というニーズもある。
 ひとりになれる場所がなくていつも家族や知り合いがいっしょにいるような環境に長くいると、だんだん気詰まりになってくる。
 子どものころ、私はたくさん友達がいて、いつもいっしょに遊んでいたが、同時によく釣り竿をかついでひとりでフナ釣りに行き、一日中浮きをながめていたことを思いだした。大人になるとなかなか意識してそういう時間を作ることはしないものだ。

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