2012年6月3日日曜日

6月3日

◎今日のテキスト

 私は、七七八五一号の百円紙幣です。あなたの財布の中の百円紙幣をちょっと調べてみて下さいまし。あるいは私はその中に、はいっているかも知れません。もう私は、くたくたに疲れて、自分がいま誰の懐の中にいるのやら、あるいは屑籠の中にでもほうり込まれているのやら、さっぱり見当も附かなくなりました。ちかいうちには、モダン型の紙幣が出て、私たち旧式の紙幣は皆焼かれてしまうのだとかいう噂も聞きましたが、もうこんな、生きているのだか、死んでいるのだかわからないような気持でいるよりは、いっそさっぱり焼かれてしまって昇天しとうございます。
 ——太宰治「貨幣」より

◎感覚遮断

 生物は感覚器官のひとつが損なわれると、別の感覚を鋭敏にさせて損なわれた感覚を補おうとする。
 人の場合、たとえば視力を奪われた人は、聴力、触覚、嗅覚などを鋭敏にさせて、それまでと支障なく活動しようとする。
 この仕組みを利用して、「感覚遮断」を意図的におこなうことで感覚を鋭敏にすることができる。朗読や音読では聴覚が非常に重要な感覚であるが、これをより鋭敏にするために、視覚を遮断する。「遮断」というとおおげさなだが、ようするに目を閉じてみるのだ。
 意識的に目を閉じ、物音に感覚を集中することで、簡単に聴覚を鋭くすることができる。

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