◎今日のテキスト
懐中時計が箪笥の向う側へ落ちて一人でチクタクと動いておりました。
鼠が見つけて笑いました。
「馬鹿だなあ。誰も見る者はないのに、何だって動いているんだえ」
「人の見ない時でも動いているから、いつ見られても役に立つのさ」
と懐中時計は答えました。
「人の見ない時だけか、又は人が見ている時だけに働いているものはどちらも泥棒だよ」
鼠は恥かしくなってコソコソと逃げて行きました。
――夢野久作「懐中時計」より
◎全身を耳にして聴く(二)
私が尊敬するアメリカのアーティスト、ポーリン・オリヴェロスは『ソニック・メディテーション』という本のなかで「サウンド・エデュケーション」を提唱している。現代社会における教育では、日本も含めて、とかく視覚情報に偏る傾向がある。耳をすまし、音に注意を向けることで、あらためてさまざまな気づきが生まれ、繊細な感性が育つというかんがえかただ。
彼女の本にはさまざまな聴覚エチュードが提案されていて、どれもおもしろい。たとえば、目を閉じ、耳をすまして自分の回りの音を「採集してみる」というようなシンプルなものもある。
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