2012年12月10日月曜日

12月10日


◎今日のテキスト

 あまり暑いので、津田は洗面所へ顏を洗いに行った。洗面所には大きい窓があったが、今日はどんよりして風ひとつない。むしむしした午後である。
「津田さん、お電話ですよ」
 津田がぼんやり窓の外を眺めていると、女給仕が津田を呼びに来た。オフイスへ戻って卓上の電話へ耳をあてると、
「津田さん? 津田さんでいらっしゃいますか?」
 と、女の優しい声がしている。
「私、くみ子です……御無沙汰しております。今日、東京へ出て參りましたの……」
 初めは誰かと耳をそばだてていた津田の瞼に、かつてのくみ子の顏が大きく浮んで来た。
  ――林芙美子「多摩川」より


◎お経朗読

 どんな文章でもいいのだが、お経のように、抑揚も文節の区切りも、テン・マルも無視して平坦に読みつづける読み方がある。
「般若心経」でいえば「かんじーざいぼーさつはんにゃーはーらーみーたーじー」と読むように、「平家物語」だったら「ぎおんしょーじゃのはなのいろしょぎょーむじょーのひびきあり」と、意味も抑揚もかんがえずにただ平板に読みつづける。すると息継ぎができないため、ひたすら息を吐ききっていくことになる。肺のなかの空気を最後まで吐ききったら、そこではじめて休んで息を吸いこむ。
 これはゆっくりとおなじペースで息を吐ききっていくよい練習になる。

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