◎今日のテキスト
死があたかも一つの季節を開いたかのようだった。
死人の家への道には、自動車の混雑が次第に増加して行った。そしてそれは、その道幅が狭いために、各々の車は動いている間よりも、停止している間の方が長いくらいにまでなっていた。
それは三月だった。空気はまだ冷たかったが、もうそんなに呼吸しにくくはなかった。いつのまにか、もの好きな群集がそれらの自動車を取り囲んで、そのなかの人達をよく見ようとしながら、硝子窓《ガラスまど》に鼻をくっつけた。それが硝子窓を白く曇らせた。そしてそのなかでは、その持主等が不安そうな、しかし舞踏会にでも行くときのような微笑を浮べて、彼等を見かえしていた。
――堀辰雄「聖家族」より
◎いまここで自分ができること
マインドレスになり、過去のできごとや、まだ起こってもいないことにとらわれて不安になったり、ここではないどこかで起こっていることを想像して不安になることがある。しかし、それらはいくら考えても、予想しても、どうにかなるものではない。
なにか予測しないことが起こったり、遠くはなれたところで対処しなければならないことが起きたときに初めて、動く必要がある。すばやく的確に動くためには、いまくよくよとかんがえるのをやめて、いまここでできること——自分の調子を整えておくことがもっとも有効なことだろう。
いつでも冷静に俊敏に動けるように自分のこころと身体の状態を最良に整えておくこと。これが自分にいまここでできる最良のことだ。
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