◎今日のテキスト
寝ようと思って次の間へ出ると、炬燵《こたつ》の臭《におい》がぷんとした。厠《かわや》の帰りに、火が強過ぎるようだから、気をつけなくてはいけないと妻《さい》に注意して、自分の部屋へ引取った。もう十一時を過ぎている。床の中の夢は常のごとく安らかであった。寒い割に風も吹かず、半鐘《はんしょう》の音も耳に応《こた》えなかった。熟睡が時の世界を盛《も》り潰《つぶ》したように正体を失った。
すると忽然《こつぜん》として、女の泣声で眼が覚《さ》めた。
――夏目漱石『永日小品』「泥棒」より
◎簡単だけど難しい呼吸法(三)
呼吸法でもうひとつコツをつかむのに(人によっては)時間がかかるのは、気道を流れる空気の速度を一定に保ち、感じること、だ。
自分の身体に意識をむけ、マインドフルネスになるための入口に立つためには、まず呼吸を観察することからスタートするのだが、ここが意外に雑におこなってしまう人が多い。観察は「緻密に」おこなう必要がある。空気が自分の気道を出たりはいったり、鼻腔を通り抜け、鼻孔を通過していく、その速度、温度、湿度などを緻密に観察し、意識をむけていく。そのことによって、安定した深い、長い呼吸ができるようになっていく。
安定した一定の速度で、細く長く深く呼吸する。これは筋肉、神経、姿勢、さまざまなことの調和がとれていなければうまくいかないのだが、調和がとれることをめざすために呼吸法をおこなうともいえる。
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