2012年4月15日日曜日

4月15日

◎今日のテキスト

 誰か慌《あは》ただしく門前を馳《か》けて行く足音がした時、代助の頭の中には、大きな俎下駄《まないたげた》が空《くう》から、ぶら下《さが》っていた。けれども、その俎下駄は、足音の遠退《とほの》くに従って、すうと頭から抜け出して消えて仕舞つた。さうして眼が覚めた。
 枕元を見ると、八重の椿が一輪畳の上に落ちている。代助は昨夕《ゆふべ》床《とこ》の中
で慥かに此花の落ちる音を聞いた。彼の耳には、それが護謨毬《ごむまり》を天井裏から投げ付けた程に響いた。夜が更けて、四隣《あたり》が静かな所為《せい》かとも思ったが、念のため、右の手を心臓の上に載せて、肋《あばら》のはずれに正しく中《あた》る血の音を確かめながら眠《ねむり》に就いた。
 ——夏目漱石『それから』より

◎猫から学ぶ

 猫は大脳皮質が人間ほどには発達していないので、思考にとらわれることはない。それを称して「猫は頭が悪い」とか「人間より劣っている」というのは、それこそ思考(人間世界の価値判断)にとらわれている人間のおろかさを表している。
 記憶や思考にとらわれていない猫の行動を観察してみると、いつもマインドフルであることがわかる。つねに「いまここ」の自分のニーズにもとずいて行動している。それを「身勝手だ」と決めつけるのも人間の勝手な価値基準によるジャッジメントだ。猫はつねに自分に正直で、自分にとって必要なことを必要なときに他人を気にすることなく行なう、マインドフルネスのお手本のような動物である。

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