◎今日のテキスト
六月半ば、梅雨晴《つゆば》れの午前の光りを浴びている椎《しい》の若葉の趣《おもむき》を、ありがたくしみじみと眺めやった。鎌倉行き、売る、売り物――三題話し見たようなこの頃の生活ぶりの間に、ふと、下宿の二階の窓から、他家のお屋敷の庭の椎の木なんだが実に美しく生々した感じの、光りを求め、光りを浴び、光りに戯れているような若葉のおもむきは、自分の身の、殊《こと》にこのごろの弱りかけ間違ひだらけの生き方と較《くら》べて何という相違だろう。人間というものは、人間生活といぅものは、もっと美しくある道理なんだと自分は信じているし、それには違いないんだから、今更に、草木の美しさを羨《うらや》むなんて、余程自分の生活に、自分の心持ちに不自然な醜さがあるのだと、此《こ》の朝つくづくと身に沁《し》みて考えられた。
――葛西善蔵「椎の若葉」より
◎ため息
なにかできごとが起き、自分の感情が動く。怒ったり悲しんだり、いらついたり、悔しがったり、あるいは喜んだり笑ったり。ひとしきり感情が動いたあとに、ふとため息をついてしまうことがあるだろう。
感情が落ちつくとため息が出る。感情が動いているときは呼吸はあまり安定していない。浅い呼吸であることが多い。感情が落ちついたとき、無意識に呼吸を落ちつかせようとため息が出るのだ。
これを逆に利用できる。感情を落ちつかせたいときは意図的にため息をつく。
ため息は吐く息だ。意図的に息を長く吐きだしてみることで、感情がみるみる落ちついてくるのがわかる。副交感神経が働いて、神経が鎮静化するからだ。
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