◎今日のテキスト
野原にはもう春がきていました。
桜がさき、小鳥はないておりました。
けれども、山にはまだ春はきていませんでした。
山のいただきには、雪も白くのこっていました。
山のおくには、おやこの鹿がすんでいました。
坊やの鹿は、生まれてまだ一年にならないので、春とはどんなものか知りませんでした。
「お父ちゃん、春ってどんなもの。」
「春には花がさくのさ。」
「お母ちゃん、花ってどんなもの。」
「花ってね、きれいなものよ。」
「ふウん。」
けれど、坊やの鹿は、花をみたこともないので、花とはどんなものだか、春とはどんなものだか、よくわかりませんでした。
——新美南吉「里の春、山の春」より
◎立ったり座ったり
身体を動かしながら文章を読むといろいろな発見がある。
今日の新美南吉の文章の場合、最初の「野原にはもう春がきていました」という文章を、座った状態から読み始めて、文章の最後で立ち上がりきります。次の「桜が……」の文章で、立った状態から文章の最後で座りきります。
文章の長さはいろいろなので、その長さに合わせて立ったり座ったりすることで、文章を読むことと身体の動きを結びつけていきます。
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