◎今日のテキスト
十月早稲田に移る。伽藍《がらん》のような書斎にただ一人、片づけた顔を頬杖《ほおづえ》で支えていると、三重吉《みえきち》が来て、鳥をお飼いなさいと云う。飼ってもいいと答えた。しかし念のためだから、何を飼うのかねと聞いたら、文鳥ですと云う返事であった。
文鳥は三重吉の小説に出て来るくらいだから奇麗な鳥に違なかろうと思って、じゃ買ってくれたまえと頼んだ。ところが三重吉は是非御飼いなさいと、同じような事を繰り返している。うむ買うよ買うよとやはり頬杖を突いたままで、むにゃむにゃ云ってるうちに三重吉は黙ってしまった。おおかた頬杖に愛想を尽かしたんだろうと、この時始めて気がついた。
すると三分ばかりして、今度は籠《かご》をお買いなさいと云いだした。これも宜《よろ》しいと答えると、是非お買いなさいと念を押す代りに、鳥籠の講釈を始めた。その講釈はだいぶ込み入ったものであったが、気の毒な事に、みんな忘れてしまった。ただ好いのは二十円ぐらいすると云う段になって、急にそんな高価《たかい》のでなくっても善《よ》かろうと云っておいた。三重吉はにやにやしている。
――夏目漱石「文鳥」より
◎音読の呼吸「骨盤底筋群を緊張させる」
いっぱいに息を吸ったあとは、いったん息を止めてそれから吐いていくわけだが、そのときにひとつコツがある。
肺をふくらませたり縮ませたりする筋肉、すなわち呼吸に関係する筋肉はたくさんあるのだが、とくに肺の下部にくっついている横隔膜は重要だ。これも筋肉の一種で、肺の下側にくっついているほか、腹膜の上に乗っかっているともいえる。腹膜というのは腹部の内臓を包んでいる薄い膜で、袋状のものだ。
腹膜の一番下には「骨盤底筋群」という筋肉群が内臓を下から支えている。この筋肉群も呼吸とともに動く。つまり横隔膜と連動している。
息を吐くときに、この骨盤底筋群を緊張させておくと、横隔膜もがんばらなければならないために、一種の筋トレ効果がある。
骨盤底筋群を緊張させるためには、お尻の穴をキュッと絞めればいい。息を吐くときに、肛門をギュッと絞めなが、ゆっくりと吐いていく。
ちなみに、息を吸うときには鼻から、吐くときには口から、というのがわかりやすいが、両方とも鼻でも問題はない。
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返信削除日前から楽しく拝見させてもらっています。
返信削除取り上げていらっしゃる作品は、読んだことがない作品なので、
言葉の使い方や音の響きが新鮮です。
この作品を実際にどうやって身体の動きを感じながら
音にするのか、とっても興味があります。
みやもと なおこ
コメント、ありがとうございます。
返信削除身体の動きとテキストをつなげていく方法については、おいおい伝えていければと思ってます。でも、まずはお好きなように、いろいろ何度も読んでみてください。音読することを楽しんでいただけるのが、まずは一番ですね。