◎今日のテキスト
何年頃であったか忘れてしまったが、先生の千駄木《せんだぎ》時代に、晩春のある日、一緒に音楽学校の演奏会に行った帰りに、上野の森をブラブラあるいて帰った。
その日の曲目の内に管弦楽で蛙の鳴声を真似するのがあった、それはよほど滑稽味を帯びたものであった。先生はあるきながら、その蛙の声を真似して一人で面白がってはさもくすぐったいように笑っておられた。
それから神田の宝亭で、先生の好きな青豆のスープと小鳥のロースか何か食ってそして一、二杯の酒に顔を赤くして、例の蛙の鳴声の真似をして笑っていた。
考えてみると、あの時分の先生と晩年の先生とは何だかだいぶちがった人のような気がするのである。
――寺田寅彦「蛙の鳴声」
◎ルーティーンのなかから気づきが生まれる(二)
音読療法でも呼吸法、発声・音読について、自分なりの手順を決めておくといい。とくに呼吸法は、できれば毎日おなじ手順、おなじ回数を、おなじペースでおなじ時間帯に繰り返すように決めておく。そうすると、今日は身体の調子がいいなとか、悪いなとか、どこか違和感があることにすぐに気づける。
声を出すことも、喉の調子ばかりでなく、気持ちや身体全体の変化に気づくきっかけになる。
読むテキストも目先を変えてあれこれ手を出すのもいいが、いつも決まって読むものもいくつか決めておくといい。
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